こたつの足

まぶしい。

光を見るのはどれだけぶりのことか。

いや、自分の人生に光が当てられることがあったのかどうかも記憶に定かではない。

ひさしぶりなのか、初めてなのか。

とっさに「どれだけぶりか」という言葉が出てきたということは、恐らく初めてではないのだろう。

自分の姿が見えないので、自分が何者なのかもわからない。

耳に入ってくる情報がすべてた。

コタツだ、コタツ、待ちわびたよー!!

声がきこえる、自分に記憶というものがあるなら、それが正しいのであれば、これは男の声、ということになるのだろう。

コタツって出られなくなるからダメだよ、ストーブのほうがいいよ、って言われたけど、やっぱ冬はコタツだぜ!コタツでミカン、それが正しい昭和の日本人の姿だろ!!

さー、コタツ、コタツ

声を発している男が自分を掴んだ。持ち上げられたり、逆さにされたり、回されたり。大切に扱われているという感じはしないが、男がその作業に喜びを感じている気配は伝わってくる。

コタツというものがこの男に喜びを与えるものであり、自分はどうやらそのコタツの一部のようだ。

おや?男以外の声が聞こえてくるぞ

はー、やっと終わった

いよいよ俺たちの出番だな!

何を呑気なことを、困った事実に気がついてないのか

声の主は3人(人という言い方に問題があるかもしれないが、暫定的に”人”としておく)のようだ。私も含め、コタツの構成メンバーのようだ。

呑気って何が呑気だよ!

なんだよ、偉そうに!!

君たち、我らコタツの仕事が何かわかっているのか?

暖めるんだよ!

人間に足を突っ込ませて暖めるんだよ!

そうさ、で、そのあるべき正しい形状はどのようなものがわかっているのかい?

どうやら私以外の3人は、自分たちがコタツであるということをしっかりと認識しているようだ、私と違って。

俺たちは足だ!

そうだ、足だ!!

その通り、私たちはコタツの足だ。コタツの足は基本的に4本が1グループとされている

そうか、私はひとりだと思っていたけど、居場所はちゃんとあるのだな、仲間がいるのだな。

人間に足を突っ込ませて暖まらせる、いかにも。その責務をまっとうするために、我々にあるべきチームワークとはどのようなものかはおわかりか?

チームワーク?

チームだったのか

そう、4人編成のチームなんだよ、我々は。

チームワークってなんだっけ、薄っすら記憶にあるのは、みんなで一緒に何かやる、その何かを成功させるという目的のために意識を統一して行動する、そんなとこだっけ?

コタツの足っていうからには、足並み揃えなきゃね

うまいこと言ったつもりか、寒すぎるぞ

寒いからこそ僕たちが必要なんじゃないか

寒さに追い打ちをかけるんじゃない

僕以外の3人にはすでに位置づけがなされているようだ、どうやらリーダー格のような足が。そのほかの2人はタッグを組んでいるような感じがする。

ということは、チームの中で私の立ち位置は盤石といえるものではなさそうだな。

上を見てみろ

上?

天井だよ

天井とはいわない、正しくは天板だ

板?板なのか?

そうだ、つまり我々の仕事というのは、天板を支えることなのだよ

天板と足が4本セットでこたつってチームだったことか!

そうか、じゃあ天板もチームメイトだ!!

ほかに温源もあるぞ、こたつの主役は温源だ

なんだ、俺たちはオマケかよ

引き立て役かよ

引き立て役、なにかしっくりくる、私にはそういうポジションが居心地いいのだろう、でも他の3人はそれが不服のようだ。

まあ、まて。温源だけでは人間を暖めることはできないのだよ。

なぜだ?

どうせ俺たちには自ら熱を発することなんてできないさ!

そう、その通りだ、しかし熱を発することができる温源にはできないことがある

なんだよっ

熱を逃がさないように保つことだ
よくよく考えてみろ、人間を寒さから守る暖かさ、それを供給するだけのエネルギーに直接触れることができると思うか?

できない

俺たちだって頭の上から暖められたら熱いや

そうだ、暖かいと熱いは違うんだ、人間の心地よい暖かさを保つために、我らこたつの足は実に重要な任務をまかされているのだ

この私が?主役の温源にも負けないことができる?

われわれ足チームが天板と温源を支える、天板の下には空間ができる。人間はその空間に足を突っ込んで暖をとるのだ。おっと、忘れちゃいけない、その空間を成立させるためにはカバー、上掛けという存在も欠かせないものだ。

俺たちより大切なのかよ!

天板と温源と上掛けさえあれば俺たちはいらん子かよっ

いらん子、ああ、その言葉が私の胸をえぐる、必要とされないというのは、なんと悲しいことか。

すぐに結論を出すな、われら足チームが天板と温源と上掛けを支えなければ、人間は足を突っ込みにくいのだ、温源の熱がこもりすぎれば最悪発火ということにもなりかねない

そうか!

俺たちこそが人間に心地よい暖かさを提供するために重要な存在なんだ!!

よかった、上掛けや温源のように華やかな見た目を持たない私でも、居ていいんだ、と言ってもらえてる感じがする。

こたつの天板はいわばテーブルだ、君たち、テーブルの何たるかは知っているか?

知っているともさ!

そこで食事したり、仕事したりするんだぜ

そんな重要な場所を俺たちが支えているんだ!

ああ、なんて誇らしいことだろう、私が支えることによって、その上でかけがえのない作業が行われているとは。

我々の職務の重要さには気づいていただけたようで、私としても喜ばしいことだが

が?

が?ってなんだよ?何か問題でもあるのかい??

テーブルをテーブルたらしめている必須条件がある

なんだろう、リーダー格の声がけわしくなった。

テーブル、天板とは水平でなくてはいけないのだよ

水平?水平ってなんだ?

俺、知ってる!か〜も〜め〜の水兵さん♪ってやつだろ?

ボケているつもりか、だったら見事にすべっているから安心しろ

ぼ、ぼけてなんかいないやいっ

人の話にいちいち茶々を入れるな、水平というのは平ということだ、斜めになっていない、ということだ

なんでテーブルは水平でないといけないんだよっ

斜めだっていいじゃないか!

斜めのテーブルの上に物を置いたらどうなる?

んー、すべり落ちる

ころがる

だったら物を置かなければいいのでは?という私の考えを口にしたなら、きっと全力で否定されるのだろうな、そうだ、私の意見というのはずっと否定されてばかりだ。

我々の仕事はサービス業だ、こたつという快適な空間を提供することだ、人はこたつで何をするか、暖をとりながらテレビを見る、仕事をする、いくばくかの時間をすごすために、ただ足をつっこんでいるだけではない、こたつの天板上のスペースは作業場所だということにお気づきか?

サービス業!

俺たちサービス業!!

そ、それは思いもよらぬこと。チームの仕事はなんと尊いものか。私はただの役立たずではなかったのだ。

よりよいサービスを提供するために、天板を水平に保つ必要がある、そのために我々がやらなくてはならないことは

足並みをそろえること!

4人の高さが同じであること!!

そうだ、やっとわかったか。もう一度天板を見上げてみろ。

水平じゃない!

斜めになっている!!

あ、足並みが揃っていないのか、ま、まさか私が、、、

我々は4人が揃ってこそ天板を水平に保つ、という責務を果たすことができる、サービスを提供することができる、自分以外のメンツに揃える、ということは必須だ

ちょっと待ってよ

僕たちは同じだよ

そうだ、お前たち2人は同じだが、生憎と俺と同じではない、俺のほうが高い、俺に合わせて背丈を伸ばせ

な、なんで僕らがあんたに合わせないといけないんだよ

そうだよ、僕ら2本は揃ってるんだから、君が僕らに合わせれば済む話じゃないかっ

俺は高いのだ、より広い空間を人間に提供することができるのだ、優れたものに合わせるのが摂理というものではないか

じゃあ、こいつはどうなるんだよ

そうだよ、このチビはどうなんだよっ

チ、チビ、それは私のことか。

ああ、やっと気付いた、私は他の3人より背丈が短いのだ、私は天板を支えることができず、天板の上に乗せられたものを斜めにずり落ちさせてしまうのだ。

さあ、どうにかして私に合わせていただこうか

何いってるんだよ、僕らは多数派だぞ、僕らに合わせるのが筋ってもんじゃないか

そうだ、そうだよ!

わ、私はどうすればいいのか、足らずの部分はどうやって埋めればいいのか、継ぎ足すことなどできるのか。

私はお前たちより優れているのだ、多くを所有しているのだ、私を基準とするのだ

僕らは多数派だ

多数派こそが正義だよっ

わ、私はどうすればいいのか、誰に合わせればいいのか、誰が私の足らずを埋めてくれるのか、短いままでは存在意義がないのか

4本の足が喧々囂々とやっている時である、頭上から男の声が響いた。

なんだよ、これ、不良品じゃないか

あら、ほんと、足の長さが揃ってないわ

どうやら男以外に女なるものもいるらしい。

使いものにならないなー、返品だ

めんどくさいわ、長さ揃えればいいじゃないの

そうだな、一番短いのに合わせるか

自分が一番だ、と主張していたノッポも

多数派の力を強行しようとした2本も

一番短い、足らずと自分を責めていた足に揃えて

短く切られてしまいました。

短くてよかった、と足を切られて痛みを

こらえている他の3本を横目に安堵のため息を漏らすのでした。

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