松本大洋「Sunny」最終巻

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自分で買った松本大洋ってこれだけなんです。

あとは全部いただきもの。頂戴した鉄コン筋クリートはチビが小学生のときにはまりました。

こんな悲しい物語をどうして彼は気に入ったのだろう。

Sunny、親元から離れてくらす子供たちの施設、星の子学園が舞台です。どの子も親が迎えに来てくれることだけをただひたすら待っています。

主要人物は勉強が好きな優等生の静（せい）と、荒れ狂う白髪の春男、そして女の子のめぐむです。

最終話、この３人はいずれも星の子学園を出て行くことになります。それについて「卒業おめでとう！」的なレビューを少なからず目にしたのですが。

が。

なにがめでたいものか。

春男とめぐむは親からの引き取りを拒まれて、星の子学園以外を新しい居場所とすることになりました。静はめでたくおかあさんと一緒の生活を取り戻しましたが、いい子にしてないとやばいぜ的なものが感じられるのは一緒に暮らせていなかった期間の不安ゆえでしょう。

春男もめぐむも、親に選択してもらえなかった、という途方もない巨大な穴ぼこを抱えてこれから生きていくわけです。生きて行くしかないのです。

生きて行くことはできます。ひょっとすると星の子学園の記憶も薄れていくかもしれません。そして穴ぼこが大きければ大きいほど、後ろ髪を引くものを振りほどくように遮二無二に進んでいくことでしょう。自分は大丈夫だ、と必死で言い聞かせながら。

星の子学園からの卒業とは、それは親をあきらめるということです。親以外に自分の居場所を見つけるしかない、ということです。それをおめでとう、などと私は言えません。

帯に「星の子たちに訪れる別れの日。それは新たなる星への旅立ちの日でもあった。」とありますが、もちろん新たな星にむけて希望を持って進んでいくことでしょう。でも、親から選んで貰えなかったという穴が埋まることはないのです。

穴ぼこが大きい人ほど、前向きな人ほど、過去をなかったものにしようとします。過去＝ちっちゃいちゃん。私はそんなことでは傷ついてなどいない、と前ばかりを見て進んでいきます。

するとどうなるか。

ちっちゃいちゃんが声をあげます。私のこと無視しないでよ！と。私はまだ気が済んでいないのよ！と。そして痛みを思い出させるために問題をひっぱってきます。問題は立ち止まるための機会です。突っ走っていくなよ、と。

いいんです、いいんです、突っ走っても。力技でねじふせて、振り切っていける方もいらっしゃいます。後ろ、過去を見るのはさぞかし嫌なことでしょう。

でも。

その歩をとめられたとき、停滞せざるを得なくなったとき、それはちっちゃいちゃんからの声だと思ってください。あなたが幸せな子ども時代を取り戻すための。
参考エントリー：幸せな子ども時代を取り戻すのに遅すぎるということはない

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